1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(EMIC)-AlCl3 に代表されるクロロアルミネート系イオン液体を用いた Al 合金の電析が、表面処理技術として大きな関心を集めている。これまでの Al 合金電析の研究では、Al 電析を阻害する可能性のある水がイオン液体に混入することを避けるため、金属イオン源として、無水塩化物が一般的に使用されていた。しかし、多くの無水遷移金属塩化物はイオン液体への溶解度が低いため、遷移金属元素を高濃度で含む Al 基合金を、高電流密度で得ることは困難であった。本研究では、W(II) 塩化物の水和物であるW6Cl12·2H2Oおよび(H3O)2[W6Cl14]·7H2Oを、W イオン源として用いた Al-W 合金膜の電析について調べた。これらの水和塩は、無水塩である W6Cl12 よりも、EMIC-AlCl3 イオン液体によく解けることが分かった。水和塩を用いると、W イオンが高濃度に溶解したイオン液体が得られるため、W 含有率の高い Al-W 合金膜を高電流密度で電析させることができた。水和塩の使用によって、電流効率や電析膜の品質に悪影響が及ぶことはなかった。ラマン分光法、フーリエ変換赤外分光法、拡張X線吸収微細構造分光法、紫外可視分光法を用いて、イオン液体中の Al と W イオン種の同定を行った結果、水和塩に由来する溶存種は、無水塩に由来する溶存種とは異なることが示された。水和塩の高い溶解度と Al-W 合金電析の成功は、クロロアルミネート系イオン液体を用いる電析において、水和塩の使用を必ずしも避ける必要はないことを示している。
Shota Higashino, Yoshikazu Takeuchi, Masao Miyake, Takumi Ikenoue, Masakazu Tane, Tetsuji Hirato
Journal of Electroanalytical Chemistry, Volume 912, 1 May 2022, 116238